2025年は、給湯器の交換を検討する上で極めて重要な年です。政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向け、国土交通省、経済産業省、環境省の3省が連携する、これまでにない規模の大型支援策「住宅省エネ2025キャンペーン」を本格的に始動させました 。これは、単なる前年度制度の延長ではありません。補助金の仕組みを、より高性能なIoT対応機器や高効率モデルへと大胆に誘導し、これまで支援が手薄だった賃貸住宅市場にも本格的にメスを入れるなど、国の省エネ政策の「本気度」を示す戦略的な転換点と言えます。
給湯器の交換は家計にとって大きな投資ですが、この歴史的な追い風を捉えることで、その負担を劇的に軽減することが可能です。しかし、制度が複雑化し、複数の補助金が絡み合う2025年の状況下では、断片的な情報だけでは最適な選択はできません。どの制度を、どの機器に、どのように適用するのか。その戦略次第で、受け取れる補助金額には数十万円単位の差が生じる可能性すらあります。
本レポートは、2024年までの古い情報から完全に脱却し、2025年の最新制度を網羅的かつ深く掘り下げて解説するものです。国の主要な補助金制度である「給湯省エネ2025事業」「子育てグリーン住宅支援事業」「賃貸集合給湯省エネ2025事業」の詳細な内容と、それぞれの戦略的な使い分けを明らかにします。さらに、お住まいの地方自治体が独自に提供する制度の探し方から、給湯器メーカー各社が展開する独自のキャッシュバックキャンペーンに至るまで、あらゆる角度からのコスト削減策を統合的に分析します。
本稿の目的は、読者の皆様が給湯器交換の初期費用を最小化し、同時に省エネ性能の高い機器の導入による長期的なランニングコスト削減という「二重の利益」を最大化するための、完全な戦略地図を提供することにあります。このレポートを最後までお読みいただくことで、2025年における最も賢明な給湯器選びと、補助金活用のための確かな知見を得られることをお約束します。
第1章:2025年給湯器補助金の全体像と基本知識
2025年の給湯器補助金制度を理解する上で、まずその全体像を把握することが不可欠です。今年度の補助金は、個別の事業が点在していた従来とは異なり、政府の強力なリーダーシップのもと、一つの大きな枠組みの中に統合されています。この章では、その核となるキャンペーンの概要と、補助対象となる給湯器の種類、そして国と地方自治体の役割分担について解説します。
1-1. 2025年の補助金制度の核:「住宅省エネ2025キャンペーン」とは?
「住宅省エネ2025キャンペーン」は、2024年までのキャンペーンの後継事業として、国土交通省、経済産業省、環境省が緊密に連携して実施する、家庭部門の省エネ化を強力に推進するための包括的な補助金パッケージです 。2050年カーボンニュートラルという国家目標の達成に向け、住宅の断熱性向上や高効率給湯器の導入といった、エネルギー消費削減に直結する分野へ重点的に予算が投じられています。
このキャンペーンは、以下の4つの主要な補助事業で構成されており、給湯器の交換はこれらの事業に横断的に関連しています 。
- 子育てグリーン住宅支援事業(所管:国土交通省・環境省) 高い省エネ性能を持つ住宅の新築や、住宅の省エネリフォームを支援する事業。リフォームにおいては、高効率給湯器の設置が補助対象の一つに含まれます。
- 先進的窓リノベ2025事業(所管:環境省) 断熱性能の高い窓への交換リフォームに特化した事業。直接給湯器は対象外ですが、後述するワンストップ申請において関連します。
- 給湯省エネ2025事業(所管:経済産業省) 本レポートの核となる、高効率給湯器の導入に特化した事業。エコキュートやハイブリッド給湯器など、特に省エネ性能の高い機器が対象です。
- 賃貸集合給湯省エネ2025事業(所管:経済産業省) 2025年から新設された画期的な事業。賃貸マンションやアパートのオーナーが、省エネ性能の高いガス給湯器(エコジョーズ等)に交換するのを支援します。
これらの事業の最大の特徴は、消費者の利便性を高める「ワンストップ申請」の仕組みが導入されている点です 。例えば、窓のリフォームと給湯器の交換を同時に行う場合、リフォーム業者は一つの入り口から申請手続きを行うことで、それぞれの工事内容を最も有利な補助事業に自動的に振り分けて申請できます。これにより、消費者は複雑な制度を意識することなく、複数の補助金の恩恵を最大限に受けることが可能になりました。
1-2. 補助対象となる省エネ給湯器の種類
補助金の対象となるのは、従来の給湯器に比べてエネルギー消費効率が格段に高い「省エネ給湯器」です。国の政策は、これらの機器の普及を通じて家庭からのCO2排出量を削減することを目的としています。主に以下の4種類が補助金の中心となります。
- EcoCute (エコキュート / ヒートポンプ給湯機) 大気中の熱エネルギーをヒートポンプ技術で集め、少ない電気エネルギーでお湯を沸かす非常に高効率な電気給湯器です。特に、電気料金が割安な夜間にお湯を沸かして貯湯タンクに蓄えることで、日中の電力使用を抑え、ランニングコストを大幅に削減できます。国の補助金制度、特に「給湯省エネ2025事業」では主要なターゲット機器と位置づけられています 。
- Hybrid (ハイブリッド給湯器) エコキュートと同じヒートポンプ技術と、従来のガス給湯器を組み合わせた、文字通り「ハイブリッド」な給湯器です。日常的な少量の湯沸かしは高効率なヒートポンプで行い、お風呂の湯張りや多量の給湯が必要な場面ではパワフルなガスを併用します。電気とガスの「良いとこ取り」をすることで、エネルギー効率と快適性を両立させており、「給湯省エネ2025事業」の対象となっています 。
- Ene-Farm (エネファーム / 家庭用燃料電池) 都市ガスやLPガスから水素を取り出し、空気中の酸素と化学反応させることで「発電」し、その際に発生する熱を利用してお湯も作るコージェネレーションシステムです。電気とお湯を同時に作り出すため、エネルギーを無駄なく利用できます。家庭で発電するため、送電ロスがなく、停電時にも電気を使えるレジリエンス性の高さも特徴です。「給湯省エネ2025事業」では、その高い性能と社会貢献性から、最も高い補助額が設定されています 。
- Eco-Jozu / Eco-Feel (エコジョーズ / エコフィール) 従来のガス給湯器や石油給湯器では、約200℃の排気ガスとして捨てられていた熱を再利用(潜熱回収)し、水をあらかじめ温めることで熱効率を大幅に向上させた給湯器です。少ないガス(石油)量で効率よくお湯を沸かすことができ、ガス(石油)給湯器の中では高い省エネ性能を誇ります。2025年の制度では、「給湯省エネ2025事業」の対象からは外れましたが、「子育てグリーン住宅支援事業」や、新設された「賃貸集合給湯省エネ2025事業」の主要な対象機器として重要な役割を担っています 。
1-3. 国と地方自治体の補助金制度の役割分担と連携
給湯器の補助金は、国が主導する大規模な制度と、各地方自治体が独自に実施する制度の二本立てで構成されています。この二つの関係性を理解することが、補助金を最大限に活用する上で重要です。
- 国の補助金制度の役割 国の制度は、全国一律の基準で大規模な予算を投じ、省エネ性能が特に高い特定の機器(エコキュート、ハイブリッド給湯器、エネファームなど)の普及を強力に推進する役割を担います。2025年におけるその中核が「給湯省エネ2025事業」です 。この事業は、補助額の体系に工夫を凝らすことで、市場全体をより高性能な製品へと誘導するトップダウンのアプローチを採っています。具体的には、基本的なモデルへの補助額を前年より引き下げる一方で、IoT機能を備えたり、よりCO2削減効果が高かったりする上位モデルへの「性能加算額」を増額しています 。これは、単なる機器の更新を促すだけでなく、将来のスマートグリッド社会を見据えた「賢い給湯器」の普及を目指すという、国の明確な戦略の表れです。
- 地方自治体の補助金制度の役割 一方、都道府県や市区町村が実施する独自の補助金制度は、国の制度を補完し、より地域の実情に合わせたきめ細やかな支援を提供する役割を持ちます。例えば、国の制度ではカバーしきれない中堅クラスの省エネ機器を対象に加えたり、高齢者世帯や子育て世帯といった特定の住民層への支援を手厚くしたり、寒冷地での高効率暖房設備の導入を促進したりするなど、その内容は多岐にわたります。沖縄県の事例を見ると、うるま市が「島しょ地域空き家改修補助金」を設けるなど、特定の地域課題の解決を目的とした制度が存在します 。
これらの役割分担から、消費者が取るべき最も効率的なアプローチが見えてきます。まず、全国どこでも利用可能で補助額も大きい国の「給湯省エネ2025事業」の対象となるかを最優先で確認します。これが補助金活用の「幹」となります。その上で、もし国の制度の対象外であった場合や、さらなる補助の上乗せを狙う場合に、お住まいの自治体が提供する独自の制度を「セカンドオプション」または「追加オプション」として調査する。この二段構えのアプローチこそが、2025年の複雑な補助金制度を乗りこなし、最大の経済的メリットを引き出すための鍵となるのです。
第2章:【国】2025年度の主要補助金制度を徹底解説
2025年の給湯器交換を検討する上で、国の補助金制度を理解することは避けて通れません。今年度は「住宅省エネ2025キャンペーン」の旗印のもと、複数の強力な事業が展開されています。この章では、高効率給湯器導入の最重要制度である「給湯省エネ2025事業」、リフォームと組み合わせて活用できる「子育てグリーン住宅支援事業」、そして新たに賃貸オーナー向けに創設された「賃貸集合給湯省エネ2025事業」の3つを軸に、それぞれの目的、対象、補助額、そして戦略的な活用法を徹底的に解説します。
2-1. 給湯省エネ2025事業:高効率給湯器導入の最重要制度
「給湯省エネ2025事業」は、家庭におけるエネルギー消費全体の約3割を占めるとされる給湯分野の省エネ化を加速させることを目的とした、経済産業省所管の補助金制度です 。高効率給湯器の普及を通じて、国の「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」の達成に貢献することが期待されています。エコキュート、ハイブリッド給湯器、エネファームといった、特に省エネ性能の高い機器の導入を検討している消費者にとって、最も注目すべき制度です。
制度の基本情報
- 対象工事: 2024年11月22日以降に工事に着手したものが対象となります 。
- 申請者: 補助金の申請手続きは、事前に事務局に登録された「給湯省エネ事業者」(リフォーム会社、工務店、販売店など)が行います。消費者が自ら直接申請することはできません 。
- 補助金の構造: 補助額は、すべての対象機器に適用される「①基本額」、特定の高性能モデルに上乗せされる「②性能加算額」、そして古い非効率な機器を撤去した場合に加算される「③撤去加算額」という、三階建ての構造になっています 。
補助金額の詳細と2024年度からの変更点 2025年度の制度は、単なる前年の継続ではなく、市場をより高性能な製品へと誘導するための戦略的な変更が加えられています。以下の表は、機器ごとの詳細な補助額と、2024年度からの変化をまとめたものです。
表1: 給湯省エネ2025事業 機器別補助金額一覧
機器の種類 | 補助額の内訳 | 2025年度 補助額/台 | 2024年度参考 | 備考 | |
エコキュート | ①基本額 | 6万円 | 8万円 | 2025年度目標基準値達成機など | |
②性能加算(A要件) | +4万円 (計10万円) | +2万円 (計10万円) | IoT対応・昼間シフト機能 | ||
②性能加算(B要件) | +6万円 (計12万円) | +4万円 (計12万円) | 高効率CO2削減モデル | ||
②性能加算(A+B要件) | +7万円 (計13万円) | +5万円 (計13万円) | 両方満たす最上位モデル | ||
ハイブリッド給湯器 | ①基本額 | 8万円 | 10万円 | 年間給湯効率108.0%以上 | |
②性能加算(A要件) | +5万円 (計13万円) | +3万円 (計13万円) | IoT対応・昼間シフト機能 | ||
②性能加算(B要件) | +5万円 (計13万円) | +3万円 (計13万円) | 年間給湯効率116.2%以上 | ||
②性能加算(A+B要件) | +7万円 (計15万円) | +5万円 (計15万円) | 両方満たす最上位モデル | ||
エネファーム | ①基本額 | 16万円 | 18万円 | – | |
②性能加算(C要件) | +4万円 (計20万円) | +2万円 (計20万円) | ネットワーク接続、停電時発電機能等 | ||
撤去加算 | ③電気蓄熱暖房機の撤去 | +8万円 | +10万円 | 上限2台まで | |
③電気温水器の撤去 | +4万円 | +5万円 | エコキュート撤去は対象外 | ||
(出典: ) |
この表から読み取れる最も重要な点は、2025年の制度が単なるコスト補助から「市場誘導型インセンティブ」へと質的に変化したことです。エコキュートとハイブリッド給湯器の「基本額」がそれぞれ2万円減額された一方で、性能加算額が大幅に増額されています 。
- A要件は、インターネットに接続し、天気予報などと連携して太陽光発電の余剰電力が期待できる昼間に沸き上げをシフトする機能を持つ、いわゆる「スマート機能」を評価するものです 。
- B要件は、基準となるモデルよりもCO2排出量を5%以上削減できる、より高い省エネ性能を評価します 。
この補助金体系の変更は、消費者の選択に大きな影響を与えます。以前は「どの機種を選んでも補助額はあまり変わらない」という状況でしたが、2025年からは「どの機種を選ぶか」という戦略的な判断が、受け取れる補助金額に直接的に、かつ大きく影響するようになりました。初期費用が高い上位モデルであっても、補助金の増額分によって価格差が縮まり、さらに長期的な光熱費削減やスマートフォン連携といった利便性向上も享受できるため、トータルでの費用対効果では基本モデルを上回る可能性が十分にあります。消費者は、目先の価格だけでなく、将来のエネルギーインフラとの連携も見据えた「賢い」給湯器を選ぶことが、より大きなメリットに繋がるということを理解する必要があります。
2-2. 子育てグリーン住宅支援事業:リフォームで活用する給湯器補助
「子育てグリーン住宅支援事業」は、2024年に実施された「子育てエコホーム支援事業」の後継制度です 。制度名に「子育て」とありますが、2025年度の大きな変更点として、
リフォームに関しては世帯の属性を問わず、全世帯が補助対象となりました 。これにより、より多くの家庭が活用できる汎用性の高い制度となっています。
給湯器設置の補助内容 この事業において、高効率給湯器の設置は「エコ住宅設備の設置」というカテゴリーに含まれ、必須工事の一つとして位置づけられています 。
- 対象機器: エコキュート、ハイブリッド給湯器、エコジョーズ、エコフィールなど、幅広い高効率給湯器が対象です 。
- 補助額: 設置する高効率給湯器の種類にかかわらず、一律で1台あたり30,000円が補助されます 。
- 申請条件: この事業の最大の特徴は、給湯器の設置単体では補助金を申請できない点です。補助を受けるためには、以下の3つの必須工事カテゴリーのうち、最低2つ以上を同時に実施する必要があります 。
- 開口部の断熱改修(内窓設置、外窓交換、ガラス交換など)
- 外壁、屋根・天井または床の断熱改修
- エコ住宅設備の設置(高効率給湯器、節水型トイレ、高断熱浴槽など) さらに、これらの工事によって算出される補助額の合計が5万円以上になることが申請の最低条件です 。
戦略的な活用法 この制度の構造は、給湯器交換を検討する消費者に対して、明確な戦略的判断を促します。補助額が30,000円と「給湯省エネ2025事業」(エコキュート基本額6万円)に比べて低く設定されているため、エコキュートやハイブリッド給湯器といった高額補助が見込める機器を導入する場合は、「給湯省エネ2025事業」を利用する方が圧倒的に有利です。
しかし、「子育てグリーン住宅支援事業」が真価を発揮するシナリオも存在します。 第一に、「給湯省エネ2025事業」の対象外であるエコジョーズやエコフィールを導入したい場合です。この事業を利用すれば、エコジョーズの設置でも30,000円の補助を受ける道が開かれます。 第二に、給湯器交換が主目的ではなく、窓や壁の断熱リフォームをメインに考えている場合です。断熱リフォームと組み合わせることで、給湯器交換単体では満たせない「合計補助額5万円以上」という申請条件を容易にクリアできます。例えば、内窓設置で40,000円、エコジョーズ設置で30,000円の補助額となり、合計70,000円の補助金申請が可能になります。このように、本事業は給湯器単体ではなく、「住宅全体の省エネ性能向上」というより広い文脈の中で給湯器交換を位置づける際に、非常に有効な選択肢となるのです。
2-3. 【賃貸オーナー向け新設】賃貸集合給湯省エネ2025事業
2025年の補助金制度における最大の目玉の一つが、この「賃貸集合給湯省エネ2025事業」の新設です。従来、賃貸住宅は入居者が光熱費を負担するため、オーナーが費用をかけて省エネ設備を導入するインセンティブが働きにくいという構造的な課題がありました。この事業は、その課題に直接アプローチし、これまで補助金制度の恩恵を受けにくかった賃貸集合住宅の省エネ化を促進することを目的とした、画期的な制度です 。
制度の概要
- 対象者: アパートやマンションなどの賃貸集合住宅のオーナー、オーナーから委託を受けた管理会社、あるいは複数の住戸を所有する区分所有者などが補助対象者となります 。
- 対象工事: 対象となるのは、1棟に2戸以上の賃貸住戸を有する既存の集合住宅において、設置されている従来型の給湯器を、補助対象である小型の省エネ型給湯器(エコジョーズまたはエコフィール)に交換する工事です。リース契約による導入も対象に含まれます 。
- 補助金額: 補助額は、設置する給湯器の機能(追い焚き機能の有無)に応じた基本額と、特定の付帯工事(ドレン排水工事)に対する加算額で構成されます。
表2: 賃貸集合給湯省エネ2025事業 補助金額と加算要件
設置する給湯器 | 基本補助額/台 | 加算要件(追加工事) | 加算額/台 | 合計補助額/台 | |
エコジョーズ/エコフィール(追い焚き機能なし) | 5万円 | 共用廊下を横断するドレン排水ガイド敷設 | +3万円 | 最大8万円 | |
エコジョーズ/エコフィール(追い焚き機能あり) | 7万円 | 浴室へのドレン水排水工事 | +3万円 | 最大10万円 | |
(出典: ) |
この制度は、賃貸住宅のオーナーにとって、単なるコスト削減以上の意味を持ちます。省エネ性能の高い給湯器を導入することは、入居者の光熱費負担を軽減し、物件の魅力を高めることに直結します。これは、近隣の競合物件との差別化を図り、空室リスクを低減させ、長期的に安定した賃貸経営を行う上での強力な武器となり得ます。補助金を活用して設備投資の負担を軽減しつつ、物件の付加価値と資産価値を向上させる。本事業は、賃貸オーナーにそのような戦略的な投資を促す、絶好の機会を提供するものです。
2-4. 都道府県・市区町村の独自補助金制度
国の強力な補助金制度に加えて、お住まいの地域によっては、都道府県や市区町村が独自に給湯器交換を支援する補助金制度を設けている場合があります。これらの制度は、国の制度の補完、あるいは地域独自の政策目的(例:特定のエネルギー源の利用促進、高齢者支援など)のために運営されています。
情報の探し方 地方自治体の補助金情報を得るための最も確実な方法は、お住まいの都道府県庁や市区町村役場の公式ウェブサイトを確認することです。「(自治体名) 住宅補助金」「(自治体名) リフォーム助成金」「(自治体名) 省エネ 給湯器 補助金」といったキーワードで検索すると、関連情報が見つかることが多いです。また、ウェブサイトで情報が見つからない場合でも、役所の環境政策課、建築指導課、商工課といった担当窓口に直接電話で問い合わせることも有効な手段です。地域の給湯器販売店やリフォーム業者も、地元の補助金情報に精通している場合があるため、相談してみる価値はあります。
ケーススタディ:沖縄県の状況 例えば、沖縄県に注目すると、県全体で統一された給湯器補助金はありませんが、各市町村レベルでリフォーム関連の補助金が提供されている場合があります 。
- うるま市では、特定の条件下で「島しょ地域空き家改修補助金」が設けられており、工事費の50%(上限50万円)が補助されるなど、地域課題に特化した支援が見られます 。
- 那覇市では、2025年8月現在、給湯器交換に特化した補助金制度の存在は公式情報からは確認できません 。しかし、住宅リフォーム全般を対象とする補助金が将来的に設けられたり、既存の制度が適用できたりする可能性もゼロではありません 。
このように、自治体の補助金は、その有無、内容、申請期間、予算規模が多種多様です。国の補助金が全国共通の「幹」であるとすれば、自治体の補助金は地域ごとに異なる「枝葉」と言えます。したがって、給湯器交換を計画する際には、必ずお住まいの自治体の情報を確認し、国の制度との併用が可能か(多くの場合、同一工事に対する併用は不可とされていますが、要確認)、申請のタイミングや要件はどうかを詳細にチェックすることが、取りこぼしなく補助金を活用するために不可欠なプロセスとなります。
第3章:補助金申請の完全ステップガイドと注意点
補助金制度の概要を理解したら、次はいよいよ実践的な申請プロセスに進みます。2025年の補助金制度では、申請手続きの多くを専門業者が代行するため、消費者(施主)の負担は大幅に軽減されています。しかし、プロセス全体を理解し、いくつかの重要なポイントを押さえておくことが、スムーズかつ確実に補助金を受け取るための鍵となります。この章では、申請の具体的な流れから、消費者が準備すべきこと、そして陥りがちな失敗とその対策までを詳しく解説します。
3-1. 補助金申請のフロー
補助金の申請から受け取りまでのプロセスは、概ね以下のステップで進行します。この流れを把握しておくことで、計画的に準備を進めることができます。
- 情報収集・計画立案 本レポートのような信頼できる情報源を基に、自身の状況(持ち家か賃貸か、リフォームの範囲など)に合った補助金制度(例:「給湯省エネ2025事業」)を特定します。同時に、導入したい給湯器の種類(エコキュート、ハイブリッドなど)や、性能(A/B要件を満たすか)について、ある程度の目星をつけておきます。
- 事業者選定【最重要ステップ】 補助金申請の成否を分ける最も重要なステップです。必ず「住宅省エネ2025キャンペーン」の公式サイトで**「住宅省エネ支援事業者」として登録されている**リフォーム会社や工務店、販売店を探し、連絡を取ります 。公式サイトには登録事業者を検索できる機能が用意されています。この登録がない事業者と契約しても、補助金は一切受けられません。
- 見積取得・契約締結 選定した登録事業者(複数から見積もりを取るのが望ましい)に現地調査を依頼し、正式な見積書を提示してもらいます。その際、どの補助金を利用するのか、補助額はいくらになる見込みかを確認します。内容に納得したら、事業者と正式に工事請負契約を締結します。この契約書は、補助金申請に必須の書類となります 。
- 工事着工・完了 契約に基づき、事業者が給湯器の設置工事を実施します。この際、事業者は補助金申請に必要となる工事前と工事後の写真を撮影します。これは、工事が適切に行われたことを証明する重要な証拠となります 。
- 補助金交付申請(事業者による代行) 工事が完了し、機器の引き渡しが終わった後、事業者が消費者に代わって、事務局のオンラインポータルシステムを通じて補助金の交付申請手続きを行います 。消費者が自ら複雑な申請書類を作成・提出する必要はありません。
- 交付決定・補助金還元 事務局による申請内容の審査が行われ、不備がなければ補助金の交付が決定されます。交付決定後、補助金はまず事業者の口座に振り込まれます。その後、事業者は受け取った補助金全額を消費者に還元します。還元方法は、最終的な工事代金の支払い額から補助金額を差し引く(相殺する)形が一般的ですが、現金で直接支払われる場合もあります 。
3-2. 申請は専門業者にお任せ:消費者が準備するもの
前述の通り、2025年の補助金制度では、申請手続きの主役は登録事業者です。これにより、消費者の役割は「煩雑な書類作成業務」から、「信頼できる登録事業者を選び、求められた書類を速やかに提供する協力者」へと変化しました。消費者が事業者から準備・提出を求められる主な書類は、以下の通りです。
- 本人確認書類のコピー 申請者が本人であることを証明するための書類です。一般的には、運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証などのコピーが用いられます。住民票の写しが求められる場合もあります 。
- 共同事業実施規約への同意・署名 これは、消費者が事業者と共同で補助金事業に取り組み、補助金が事業者を介して還元されることなどに同意する旨を示す、事務局指定の書式です。事業者から提示されるので、内容を確認の上、署名・捺印して提出します 。
- (場合により)建物の所有を証明する書類 申請者が対象となる住宅の所有者であることを証明するために、固定資産税の納税通知書のコピーや、建物の登記事項証明書(登記簿謄本)の提出を求められることがあります。
これらの書類を事前に準備しておくことで、事業者との契約から申請までのプロセスを円滑に進めることができます。
3-3. 2025年版・申請時のよくある間違いと対策
手続きが簡素化されたとはいえ、補助金申請には依然として見落としがちな落とし穴が存在します。ここでは、2025年の制度において特に注意すべき間違いと、それを回避するための対策を解説します。
- 間違い①:未登録の事業者と契約してしまう
- 影響: 最も致命的なミスです。工事を完了しても、補助金は1円も受け取ることができません。
- 対策: 契約を結ぶ前に、必ず「住宅省エネ2025キャンペーン」の公式サイトにアクセスし、検討している事業者が「住宅省エネ支援事業者」として正式に登録されているかを確認してください。口頭での「登録しています」という言葉を鵜呑みにせず、必ず公的なリストで裏付けを取ることが重要です。
- 間違い②:補助金の併用ルールを誤解する
- 影響: 申請が二重申請と見なされ、却下されるリスクがあります。
- 対策: 「一つの工事に対して、国の補助金は一つ」という大原則を理解することが重要です。例えば、1台のエコキュートを設置する工事に対して、「給湯省エネ2025事業」と「子育てグリーン住宅支援事業」の両方に申請することはできません 。ただし、工事内容が明確に分かれている場合は、キャンペーン内の事業を併用することが可能です。具体的には、エコキュートの設置に「給湯省エネ事業」を、窓の断熱リフォームに「先進的窓リノベ2025事業」をそれぞれ適用する、といった組み合わせは認められています 。
- 間違い③:予算上限による早期終了のリスクを軽視する
- 影響: 工事契約を済ませ、交換の準備を進めていても、いざ申請しようとした段階で予算が尽きていれば、補助金は受けられません。
- 対策: 国の補助金事業は、定められた申請期間内であっても、申請額が予算の上限に達した時点で受付を終了します 。特に補助額が大きく人気の高い事業は、年度末を待たずに締め切られる可能性が高いです。各事業の公式サイトでは、予算の消化率が定期的に(多くは毎日)更新・公表されています 。給湯器の交換を決断したら、のんびりせず、速やかに事業者と契約し、交付申請(または、予算枠を確保できる「交付申請の予約」)を進めてもらうよう依頼することが、補助金を確実に手にするための鉄則です。
- 間違い④:「施主支給」で給湯器本体を購入してしまう
- 影響: 補助金の対象外となります。
- 対策: 補助金の対象となるのは、登録事業者が給湯器本体の販売から設置工事までを一括で請け負う工事契約に限られます。消費者がインターネット通販などで安く給湯器本体だけを購入し、設置工事のみを業者に依頼する、いわゆる「施主支給」や「材工分離」と呼ばれる形態の工事は、補助金の対象として認められていません 。コストを抑えようとした結果、かえって高額な補助金を受け取る機会を失うことになりかねないため、絶対に避けるべきです。
第4章:補助金を最大限に活用し、総費用を抑える戦略
国の補助金制度を理解し、申請プロセスを把握しただけでは、まだゴールではありません。給湯器交換にかかる総費用を真に最小化するためには、もう一歩踏み込んだ戦略的な視点が必要です。この章では、補助金という「公的な支援」に加えて、事業者選定の工夫やメーカーのキャンペーンといった「民間の競争原理」をいかに活用するか、そして初期費用だけでなく長期的なランニングコストまで含めたトータルコストをいかに削減するか、という3つの視点から、より高度なコスト削減戦略を提示します。
4-1. 相見積もりの重要性と補助金対応事業者の選び方
給湯器の交換費用は、機器本体の価格と設置工事費で構成されますが、これらの価格は驚くほど事業者によって異なります。同じ機種、同じ工事内容であっても、A社とB社で見積額に数万円、場合によっては十数万円の差が出ることも珍しくありません。そこで極めて重要になるのが、複数の登録事業者から見積もりを取る「相見積もり」です。
相見積もりを行うことで、以下のようなメリットが得られます。
- 適正価格の把握: 複数の見積もりを比較することで、その地域や時期における工事費用の相場観が養われ、不当に高い価格を提示する業者を見抜くことができます。
- 価格交渉の材料: 他社の見積額を提示することで、価格交渉を有利に進められる可能性があります。
- サービスの比較検討: 価格だけでなく、提案内容、保証期間、アフターサービスの充実度など、各社のサービスレベルを総合的に比較し、最も信頼できるパートナーを選ぶことができます。
ただし、事業者を選ぶ際には、価格の安さだけで判断するのは危険です。以下の基準を多角的に評価し、総合的に優れた事業者を選定することが、後悔のない給湯器交換に繋がります。
- 補助金申請の実績: 「住宅省エネ支援事業者」に登録していることは大前提ですが、その中でも補助金申請の実績が豊富かどうかは重要な判断基準です。過去の申請実績が多い事業者は、手続きに習熟しており、書類の不備なくスムーズに申請を進めてくれる可能性が高いです。
- 希望メーカーへの精通度: 特定のメーカー(例:リンナイ、パナソニック)の給湯器を希望する場合、そのメーカーの製品ラインナップや特徴、後述するメーカーキャンペーンに精通している事業者を選ぶと、より的確なアドバイスが期待できます。
- 保証とアフターサービス: 給湯器は10年以上使用する住宅設備です。設置後の万一の故障やトラブルに迅速に対応してくれるか、メーカー保証に加えて独自の工事保証を提供しているかなど、長期的な安心感を担保するアフターサービスの体制は、価格以上に重要な要素です。
4-2. 補助金以外の割引・キャンペーン情報
2025年の給湯器交換における総費用削減の鍵は、国の補助金だけで完結させないことです。実は、給湯器メーカー各社も販売促進のために、国の制度とは全く別に、独自のキャッシュバックキャンペーンや割引プロモーションを期間限定で実施しています。この「メーカーの販促策」という第二の財布を、国の補助金と組み合わせる「合わせ技」が、知る人ぞ知るコスト削減の極意です。
これらのキャンペーンは、特定の高性能シリーズの購入や、ガスコンロ、食器洗い乾燥機といった他の住宅設備との同時購入を条件に、数万円規模の現金キャッシュバックや商品券を提供するものが多く見られます 。
この情報を知っているか否かで、最終的な自己負担額には決定的な差が生まれます。例えば、「給湯省エネ2025事業」でA+B要件を満たすハイブリッド給湯器を導入して15万円の補助金を受け、さらにその機種がメーカーのキャンペーン対象で3万円のキャッシュバックを受けられたとします。この場合、合計で18万円もの費用削減が実現できるのです。
以下の表は、主要な給湯器メーカーが2025年に実施している、あるいは実施する可能性のあるキャンペーンの概要をまとめたものです。これらの情報は流動的であるため、実際に検討する際には必ず各メーカーの公式サイトや販売店で最新の情報を確認する必要がありますが、戦略立案の出発点として非常に有効です。
表3: 2025年 主要給湯器メーカー別キャンペーン概要(抜粋)
メーカー | キャンペーン名(例) | 期間(例) | 対象機種・条件(例) | 特典内容(例) | 関連情報 |
リンナイ | アップデートキャンペーン2025 | 2025年8月1日~12月31日 | 対象の給湯器やキッチン機器(コンロ、食洗機等)の購入点数に応じてキャッシュバック額が変動。 | 最大38,000円の現金キャッシュバック。 | |
ノーリツ | 簡単ラク家事大作戦! | 2025年2月3日~5月30日 | 対象のハイブリッド給湯器、エコジョーズ、エコキュート等の購入と、専用アプリへの接続が条件。 | 最大35,000円の現金キャッシュバック。 | |
パナソニック | エコキュート買い替えキャンペーン | 2025年7月1日~2026年3月31日 | 中部電力エリア限定。対象のエコキュートまたはおひさまエコキュートを購入したカテエネ会員が対象。 | 30,000円分または50,000円分の提携先ポイント。 | |
三菱電機 | (メーカー独自の大型キャンペーン情報なし) | – | 給湯省エネ2025事業の対象機種が豊富にラインナップされており、国の補助金活用を前面に押し出している。 | 国の補助金(最大17万円/台)の活用を推奨。 |
この表が示すように、消費者はまず国の補助金対象機種の中から候補を絞り込み、次にその候補機種がメーカーキャンペーンの対象にもなっていないかを確認するという二段階のスクリーニングを行うことで、割引効果を最大化できます。これは、事業者との機種選定や価格交渉の場面において、非常に強力な情報武装となるでしょう。
4-3. 省エネ給湯器導入によるランニングコスト削減効果の試算
補助金やキャンペーンによる初期費用の削減は、一度きりの大きなメリットです。しかし、省エネ給湯器がもたらす真の価値は、設置後の10年、15年にわたって毎月の光熱費を削減し続ける、その長期的な経済性にあります。このランニングコストの視点を持つことが、賢い投資判断には不可欠です。
特に、従来の電気温水器やガス給湯器から、最新のエコキュートに交換した場合の光熱費削減効果は絶大です。エコキュートは、割安な夜間電力を使って効率的にお湯を沸かすため、日中の高い電気料金を回避できます。
以下の表は、沖縄エリアを例に、給湯器のタイプごとの年間のランニングコストを試算し、比較したものです。これはあくまで一つのモデルケースですが、省エネ給湯器の経済的優位性を具体的に理解する上で大いに役立ちます。
表4: 給湯器タイプ別 年間ランニングコスト比較シミュレーション(沖縄エリア参考)
給湯器タイプ | 年間ランニングコスト(目安) | 10年間の総コスト(目安) | 備考(試算条件) | 関連情報 |
エコキュート | 約27,600円 | 約276,000円 | 沖縄電力エリアでの試算。主に夜間電力(Eeホームホリデー等)を活用することを前提としたコスト。 | |
ガス給湯器(都市ガス) | 約76,800円 | 約768,000円 | 沖縄ガスの標準的な都市ガス料金に基づく試算。エコキュートとの差額は年間約49,200円。 | |
ガス給湯器(LPガス) | 約82,000円~ | 約820,000円~ | LPガスは供給会社や地域による価格差が大きく、都市ガスより高価な傾向がある。 | |
電気温水器(従来型) | 約158,400円 | 約1,584,000円 | ヒートポンプ技術を使わず、電気ヒーターのみで湯を沸かすため最もエネルギー効率が悪い。 | |
(試算条件は各出典元のデータに基づきます。実際のコストは家族構成、お湯の使用量、契約する電気・ガス料金プランにより変動します。) |
このシミュレーションが示すのは、衝撃的な事実です。例えば、都市ガス給湯器からエコキュートに交換した場合、年間で約5万円、10年間で約50万円ものランニングコストを削減できる可能性があります。これは、エコキュート導入時の初期費用(補助金適用後)を十分に回収し、さらにお釣りがくる計算です。
消費者は、初期費用の多寡だけに目を奪われるべきではありません。補助金を活用して初期投資を抑えつつ、長期的なランニングコストの削減という果実を得る。このライフサイクルコスト全体で物事を捉える視点こそが、2025年の給湯器交換を成功に導く最も重要な考え方なのです。
第5章:【機種別】2025年補助金活用シミュレーション
これまでの章で解説してきた補助金制度の知識を基に、ここでは具体的な機種と交換シナリオを想定し、実際にどれくらいの補助金が受けられるのかをシミュレーションします。エコキュート、ハイブリッド給湯器、そしてエコジョーズという3つの代表的な給湯器について、それぞれの特性を活かした最適な補助金活用戦略を具体例で示します。
5-1. エコキュート導入:性能加算と撤去加算を組み合わせた最大活用例
エコキュートは「給湯省エネ2025事業」の主役であり、補助金の各要素を組み合わせることで、最も大きな経済的メリットを享受できる可能性があります。特に、古い非効率な電気温水器からの交換は、撤去加算も適用されるため絶好の機会です。
- シナリオ設定:
- 交換前の状況: 築20年の戸建て住宅で、15年間使用した従来型の電気温水器が故障寸前。
- 導入する機器: 最新のエコキュート。せっかく交換するならと、スマートフォンで遠隔操作ができ、太陽光発電との連携も可能な**IoT対応・高効率モデル(A+B要件適合)**を選択。
- 利用する補助金: 給湯省エネ2025事業
- 補助金額の計算: このシナリオでは、補助金の三階建て構造をすべて活用できます。
- ① 基本額(エコキュート): 60,000円
- ② 性能加算(A+B要件): +70,000円
- ③ 撤去加算(電気温水器の撤去): +40,000円
- 合計補助額: 60,000円 + 70,000円 + 40,000円 = 170,000円
- 戦略的ポイント: このケースでは、合計で17万円という非常に高額な補助金が交付されます。もし基本性能のみのエコキュート(補助額6万円)を選んでいた場合と比較すると、11万円もの差が生まれます。上位モデルの価格が基本モデルより11万円以上高くなければ、補助金を考慮すると上位モデルの方が実質的な負担は少なくなる計算です。エコキュートを選ぶ際には、単に「エコキュート」という括りで見るのではなく、A要件(IoT対応による利便性向上)やB要件(さらなる省エネ性能)といった付加価値と、それによって増額される補助金額を天秤にかけ、トータルでの費用対効果を慎重に比較検討することが極めて重要です。
5-2. ハイブリッド給湯器導入:ガスと電気の最適ミックスと補助金戦略
ハイブリッド給湯器は、ガスと電気の長所を兼ね備えた高効率なシステムです。これも「給湯省エネ2025事業」で手厚い支援が受けられます。特に、現在ガス給湯器を使用していて、光熱費のさらなる削減を目指す家庭に適しています。
- シナリオ設定:
- 交換前の状況: 都市ガスエリアの戸建て住宅で、従来型のガス給湯器を使用中。家族が多く、お湯の使用量が多いためガス代が気になる。
- 導入する機器: リンナイやノーリツなどが提供する、IoT対応・高効率モデル(A+B要件適合)のハイブリッド給湯器。
- 利用する補助金: 給湯省エエネ2025事業
- 補助金額の計算: このシナリオでは、性能加算を最大限に活用します。
- ① 基本額(ハイブリッド給湯器): 80,000円
- ② 性能加算(A+B要件): +70,000円
- ③ 撤去加算: 該当なし(ガス給湯器の撤去は加算対象外)
- 合計補助額: 80,000円 + 70,000円 = 150,000円
- 戦略的ポイント: 合計15万円の補助金は、ハイブリッド給湯器の高い導入コストのハードルを大きく引き下げます。ハイブリッド給湯器は、日常の給湯を安価な夜間電力(ヒートポンプ)でまかない、急な大量出湯にはパワフルなガスで対応するため、特に都市ガスを利用している家庭や、お湯の使用量が変動しやすい家庭でランニングコスト削減効果を最大化できます。補助金を活用することで、この先進的なシステムを現実的な価格で導入し、長期的な光熱費の最適化を図ることが可能になります。
5-3. エコジョーズ導入:賃貸物件オーナーとリフォームでの活用シナリオ
エコジョーズは、「給湯省エネ2025事業」の対象外ですが、他の二つの制度を活用することで補助金を受ける道が残されています。ここでは、賃貸オーナーと持ち家リフォームという二つの異なるシナリオで、その活用法を見ていきます。
- シナリオ1(賃貸オーナー向け):
- 状況: 所有するアパート(全10戸)の老朽化した従来型ガス給湯器を、入居者の満足度向上のため、追い焚き機能付きのエコジョーズに一斉交換。配管工事も行い、浴室へのドレン排水工事も実施する。
- 利用する補助金: 賃貸集合給湯省エネ2025事業
- 補助金額の計算: 1台あたりの補助額は、基本額と加算額の合計となります。
- 1台あたり: 基本額70,000円 + 加算額30,000円 = 100,000円
- 物件全体: 100,000円/台 × 10台 = 合計補助額: 1,000,000円
- 戦略的ポイント: この新制度は、賃貸オーナーにとってまさに革命的です。100万円という大規模な補助金を活用することで、これまで躊躇しがちだった大規模な設備更新に踏み切ることができます。これにより、入居者の光熱費負担を軽減し、物件の競争力を高め、長期的な資産価値の維持・向上に繋げることが可能になります。
- シナリオ2(持ち家リフォーム向け):
- 状況: 築15年の戸建て住宅で、冬の寒さ対策としてリビングの窓の断熱リフォーム(内窓設置)を計画。そのタイミングで、調子の悪くなってきた従来型ガス給湯器もエコジョーズに交換することにした。
- 利用する補助金: 子育てグリーン住宅支援事業
- 補助金額の計算: この事業では、複数の工事の補助額を合算して申請します。
- 内窓設置(例): 40,000円(窓のサイズや性能による)
- エコジョーズ設置: 30,000円
- 合計補助額: 40,000円 + 30,000円 = 70,000円 この合計額は、申請の最低条件である「合計5万円以上」をクリアしています。
- 戦略的ポイント: このシナリオは、「子育てグリーン住宅支援事業」の特性を巧みに利用した例です。エコジョーズ単体では補助額3万円のため申請できませんが、断熱リフォームという別の必須工事と組み合わせることで、補助金の対象となります。このように、給湯器交換を単体の工事としてではなく、住宅全体の性能向上リフォームの一環として計画することで、エコジョーズのような機器でも補助金の恩恵を受けられるのです。
第6章:よくある質問(FAQ)
給湯器の補助金制度は多岐にわたり、複雑な側面もあるため、多くの疑問が生じることでしょう。この章では、これまでの解説を踏まえ、消費者が抱きやすい典型的な質問とその回答をQ&A形式でまとめました。疑問点を解消し、安心して補助金活用に臨むための一助としてください。
6-1. 給湯器の補助金は誰でも利用できますか?
補助金の種類によって対象者が異なりますが、多くの制度は幅広い層をカバーしています。
- **「給湯省エネ2025事業」や「子育てグリーン住宅支援事業(リフォームの場合)」**は、対象となる住宅を所有している方(個人または法人)であれば、世帯の属性(子育て世帯かどうかなど)や年齢を問わず、基本的に誰でも利用可能です 。
- **「賃貸集合給湯省エネ2025事業」**は、その名の通り、賃貸アパートやマンションのオーナー(大家さん)や、オーナーから委託された管理会社などが対象となります 。
- 地方自治体の補助金は、その自治体に居住していることが条件となる場合がほとんどです。制度によっては、高齢者世帯や子育て世帯などを特に対象としている場合もあります。
重要なのは、ご自身の状況(持ち家か賃貸か、居住地など)が、検討している補助金制度の対象要件に合致しているかを、申請前に必ず公式サイトや事業者に確認することです。
6-2. 複数の補助金(国の事業間、国と自治体)を併用することは可能ですか?
補助金の併用には厳格なルールがあり、これを誤解すると申請が却下される原因となります。
- 国の事業間の併用: 「住宅省エネ2025キャンペーン」内での併用については、「同一の工事箇所(設備)に対して、複数の補助金を重複して受けることはできない」のが大原則です 。例えば、1台のエコキュート設置工事に対して、「給湯省エネ2025事業」と「子育てグリーン住宅支援事業」の両方から補助金をもらうことはできません。 ただし、工事内容が異なれば、各事業を併用することは可能です 。例えば、「給湯器の交換」に「給湯省エネ2025事業」を、「窓の断熱リフォーム」に「先進的窓リノベ2025事業」を、それぞれ適用して同時に申請することは認められています。
- 国と地方自治体の補助金の併用: これについては、地方自治体の規定次第となります。多くの自治体では、国の補助金を受ける工事に対して、自治体の補助金を重ねて交付することを認めていないケースが多いです。しかし、一部の自治体では併用を認めている場合や、国の補助対象外の部分を補完する形で支援している場合もあります。したがって、利用を検討している自治体の補助金制度の要綱を詳細に確認するか、役所の担当窓口に直接問い合わせて、併用の可否を必ず確認する必要があります。
6-3. 補助金はいつまでに申請すれば良いですか?
補助金には申請受付期間が定められており、例えば2025年の国の主要な事業は、2025年12月31日までが期限とされています 。しかし、この日付だけを見て安心するのは非常に危険です。
すべての補助金事業は、予算の上限に達し次第、期間内であっても予告なく受付を終了します 。特に、補助額が大きく人気のある「給湯省エネ2025事業」などは、多くの申請が集中し、年度の後半を待たずに予算が尽きてしまう可能性が十分に考えられます。
各事業の公式サイトでは、現在の予算消化率がリアルタイムに近い形で公表されています 。給湯器の交換を決めたら、この予算消化率の動向を注視しつつ、できるだけ早く事業者と契約し、申請手続き(または予算枠を確保できる「交付申請の予約」)を進めてもらうことが、補助金を確実に手にするための鉄則です。
6-4. 賃貸住宅に住んでいますが、補助金は利用できますか?
賃貸住宅にお住まいの入居者の方が、ご自身で補助金を申請して給湯器を交換することは、基本的にできません。給湯器は建物の設備であり、その所有権と改修の権限はオーナー(大家さん)にあるためです。
しかし、2025年から状況は大きく変わりました。新設された**「賃貸集合給湯省エネ2025事業」**により、オーナーが申請して、従来型の給湯器を省エネ性能の高いエコジョーズなどに交換する道が大きく開かれました 。この制度は、オーナーにとって少ない自己負担で物件の設備をグレードアップできる大きなメリットがあります。
もしお住まいの賃貸物件の給湯器が古く、光熱費が高いと感じているのであれば、この新しい補助金制度の存在をオーナーや管理会社に伝え、「この制度を活用して、省エネ給湯器に交換してもらえませんか?」と働きかけてみる価値は十分にあります。入居者の光熱費削減は、物件の魅力を高め、長期的な入居に繋がるため、前向きに検討してくれる可能性があります。
6-5. 補助金対象外の給湯器でも、お得に交換する方法はありますか?
はい、補助金の対象とならない給湯器(例:標準的なガス給湯器など)を交換する場合や、補助金の申請に間に合わなかった場合でも、費用を抑える方法はいくつか存在します。
- メーカーや販売店の独自キャンペーンを活用する: 第4章で解説した通り、リンナイやノーリツといったメーカー、あるいは大手リフォーム会社やガス会社などが、独自の割引キャンペーンやキャッシュバックを期間限定で実施している場合があります 。これらの情報を積極的に収集し、活用することが有効です。
- 複数の事業者から相見積もりを取る: これは最も基本的かつ効果的な方法です。同じ機種、同じ工事でも事業者によって価格は異なります。複数の事業者から見積もりを取り、価格やサービス内容を比較検討することで、最も条件の良い事業者を見つけ、価格交渉の材料とすることができます。
- 長期的なランニングコストを重視する: たとえ補助金の対象外であっても、よりエネルギー効率の高いモデルを選ぶことは、将来の光熱費を削減し、10年単位で見ればトータルのコストを抑えることに繋がります。初期費用だけでなく、ライフサイクルコスト全体で判断することが賢明です。
- 保証やアフターサービスの充実度で選ぶ: 価格が少し高くても、長期の製品保証や工事保証、迅速なアフターサービスを提供している事業者を選ぶことで、将来的な修理費用などの予期せぬ出費を抑えることができます。これも一種のコスト削減策と言えます。
まとめ
2025年の給湯器交換市場は、「住宅省エネ2025キャンペーン」という、国策としての強力な追い風を受けています。これは単なる景気刺激策ではなく、2050年カーボンニュートラルという未来に向けた、日本の住宅のあり方を根底から変えようとする大きなうねりの一環です。この歴史的な機会を最大限に活用できるかどうかは、消費者の情報収集能力と戦略的な判断にかかっています。
本レポートで明らかにしてきたように、2025年の補助金活用の柱は、以下の3つの国の事業です。
- 高性能なエコキュートやハイブリッド給湯器の導入を強力に後押しする**「給湯省エネ2025事業」**。
- リフォーム全体の中で給湯器交換を位置づけ、エコジョーズなども対象とする**「子育てグリーン住宅支援事業」**。
- そして、これまで手薄だった賃貸市場に新たな可能性を開く画期的な**「賃貸集合給湯省エネ2025事業」**。
しかし、成功の鍵は、単一の補助金制度に頼ることではありません。
- 国の補助金という最も大きな財布。
- お住まいの地域が独自に提供する地方自治体の補助金という、きめ細やかな財布。
- 給湯器メーカーや販売店が展開する独自のキャンペーンや割引という、民間の財布。
この**「3つの財布」**を常に意識し、ご自身の状況に合わせてこれらをいかに戦略的に組み合わせるか。それこそが、2025年における給湯器交換の総費用を最小化するための最適解です。
給湯器の交換は、決して小さな出費ではありません。しかし、それは同時に、日々の暮らしの快適性を高め、未来にわたる光熱費を削減し、さらには環境貢献にも繋がる、非常に価値の高い投資でもあります。
本レポートで提供した網羅的な情報と戦略的視点を活用し、信頼できる登録事業者と緊密に連携の上、ご自身の家庭にとって最も賢明な給湯器交換プランを立ててください。補助金という追い風を帆いっぱいに受けて、初期費用の大幅な削減と、長期的な経済的メリットという、二重の果実を手に入れる絶好の機会を、決して逃すことのないようにしてください。